日本の借金が社会(老後)・経済(金利・為替・投資)に与える影響
財務省は、日本の国の財政状態を家庭の収支に例えてホームページで公開していますが、それによると国の財政は破綻して自己破産の状態を示しています。
また、借金の金額は国の経済力・稼ぐ力を表すGDP(国内総生産)の約2.5倍で国際的、歴史的に例がないと訴えているのです!
はたして日本の国の財政状態は危機的なのでしょうか?
日本の財政状態はギリシャよりもひどく破綻するという論調もあれば、借金の金額こそ大きいがギリシャと異なってなんの問題もないという真逆の論調もあり混沌しています。
日本の国の財政がどうなるかは国民の生活に直結する大きな問題です。
そこで、日本の国の財政状態を正しく解説し、日本の財政状態の現状が高齢化の進む日本社会と経済にどのような影響を与えるのか、そして大切な資産の防衛や将来の資産形成をどうすればよいかについて紹介します。
この記事に書いてあること
日本の国の財政状態は本当に自己破産状態?(家計に例えた場合)
財務省は平成29年4月に発表した「日本の財政関係資料」で国の財政状態を次のように家計に例えて説明しています。
それによると毎月の収入は30万円、支出は生活費としての38万円と過去の借金の利息と元本の返済に12万円の合計50万円です。
差額の赤字20万円は新たな借金18万円とその他収入でカバーしています。
毎月の借金の返済額を上回る借金を新たにしているため借金額はどんどんと膨らみ借金の残高は年収の約15倍の5,397万円に達し、さらに膨れ上がる状況で完全に破産状態です。
さらに、財務省は平成29年11月に借金の残高は1,080.4兆円で過去最高を更新したと発表しました。
内訳は、内国債が950.0兆円(うち普通国債は845.5兆円)、借入金が52.7兆円、政府短期証券が77.8兆円。内国債とは日本国内で発行された債券のことで原則円建ての債権のことです。
新聞社各紙はこの発表を受け、国民1人あたりの借金額が853万円と報道しました。
財務省も普通国債が平成29年度末には865兆円の残高になる見込みであることから、この数字を分母にして国民1人当たりの借金は約688万円だと訴えています。
この数字だけから判断すると国の財政が家計と同じ仕組みであれば、まず間違いなく破綻することでしょう。
では、本当に国の財政は破綻するのでしょうか?
財務省が家計に例えて破産状態であることを主張するのはあくまで財務省の見解ですが、財務省の言うとおりなのか、あるいは違うのかを検証します。
国の借金が多くても財政破綻をしない4つの理由
財務省が家計に例えて日本の財政が危機的状況と訴えていることに対して、財務省のトップの麻生財務大臣自ら、また元財務官僚、大学教授、経済シンクタンク研究員などが間違いである、あるいはたとえ方がよくないと指摘しています。
1.借金の1,080兆円は国の借金ではなく政府の借金
国の借金というと家庭の借金は家族の借金と同じように考えて、国を構成しているのは国民ですから国民の借金と短絡的に考えます。
しかし、借金をしているのは政府であって国民ではありません。
政府の借金の約9割を占める国債の保有者は、国内の民間金融機関と日銀がほとんどで海外からの借り入れは6%もなく、実際は金融機関が国民の預金で国債を購入しており、新聞や財務省の言うように国民が借金をしているのではなくまったくの逆でお金を国民は貸している立場です。
2.家計の金融資産残高は政府の借金を大きく上回る1800兆円
日本銀行が平成29年9月に発表した数字によると日本の家計の金融資産残高は6月時点で1832兆円です。
政府と国民をあわせた国全体では借金が1080兆円もあっても、差し引き約800兆円のプラスの資産があります。
国債が発行されても十分な購入余力があり、国債の発行は継続してでき、国債の相場が暴落する危険性もありません。
このことは海外から見れば、家庭のなかで父親が母親からお金を借りていることに例えられ、家庭外の第三者に借金の返済をしなくてもよい状態です。
そのため、政府の借金額が大きくても日本の財政に対する信用度は高く国債も低金利であっても購入され、円も強い通貨として世界から信頼され極端な円安になることもありません。
3.借金額の1080兆円は正しいが正確な財政状態を示していない
借金の金額が多いことは確かによい状態とは言えません。
さらに日本は借金が多いだけでなく収入も少なく借金を積み上げていっているので悪い印象が強まっていますが、財政状態を見るときは必ず資産と負債のバランスを見なければなりません。
極端な話ですが、10億円の借金をしている人の資産が1億円で収入も少なければ大きな問題です。
しかし、資産を100億円持っている人が10億円の借金を抱えて、さらに収入が少なくても大きな問題ではありません。
そこで、財務省が公表している平成27年度の国の負債と資産のバランスシートを見ると以下の通りです。
流動資産
- 現金預金:約52兆円
- 有価証券:約125兆円
- 貸付金:約116兆円
- 運用委託金:約107兆円
- 出資金:約72兆円
- 固定資産:約188兆円
- その他:12兆円
合計:約672兆円
負債は1080兆円と巨額ですが、かなりの資産672兆円を持っていることがわかります。
ただ、約400兆円も負債が多いことに変わりはありません。問題ないのでしょうか?
資産が100億円あって借金が10億円というほどの余裕はなく近い将来に破綻しそうに見えます。
しかし、これも大きな問題とならない理由があります。
そもそも日本だけでなく多くの国のバランスシートがこのような状態を示しており、それでも問題が大きくなっていないのは国には徴税権があるからです。
例えば、住宅ローンを借りる人は、いずれ退職して無職になり収入がなくなることから、銀行は住宅ローンの返済が厳しくなるとして長期間返済による多額の住宅ローンを認めていません。
しかし、国は永遠に税金を徴収でき、住宅ローンと比較すると多額な借金をしても返済可能なので問題とされないのです。
この徴税権は資産としての価値があり、その価値は日本の税収規模の場合は約1,000兆円に相当すると見積もられ、これを加えると資産が負債を上回り健全なバランスシートになります。
ただし、北海道の夕張市が財政破綻したように、日本の国の産業が衰退し経済成長する見込みがない場合は、税率をあげて税収を増やそうと思っても限界があります。
4.政府には最後の手段としての通貨発行権がある
日本の借金はほぼ100%が円建てであるため、借金の返済を求められれば紙幣を印刷して返済が可能です。
国が夕張市のようになってもただちに破綻することはありませんが、国は破綻しなくても国民生活には大きな影響が出るため国民にとっては好ましいことではありません。
財政赤字が日本の社会・経済に与える影響
財政赤字の拡大と債務残高の増加によって、財務省が主張するほど簡単に日本が破綻しないことは理解できました。
しかし、財政健全化ができないと、財務省が平成29年4月に公表している「日本の財政関係資料」のなかで主張している国民生活への悪影響、および財政破綻したギリシャ、日本と並ぶ経済の優等生国家ドイツが実施した政策は可能性として十分考えられます。
以下にその内容を紹介します。
1.行政サービスの低下
財政赤字がさらに拡大していけば社会保障や医療、インフラ整備などの公的なサービスは低下し、世代間の不公平、経済活力の低下、金利の上昇など国民生活に悪影響がでてきます。
2.高齢者への負担増とそれによる経済全体への悪影響
緩やかなインフレ経済を目指した現在の金融緩和政策は、現時点で期待した成果は上がっていませんが、場合によってはインフレが加速する可能性があります。
その場合、現役世代は給与が上昇しインフレの悪影響は大きくありません。
しかし、高齢者にはそのまま負担増となり、さらにそこへ年金の給付が減少すると高齢者は生活防衛のため節約をするようになり、これが国全体の経済を縮小させて景気が悪化する可能性があります。
3.ギリシャの例
日本がギリシャのようになることはすでに説明したとおり考えられません。
しかし、ギリシャで起きたことは知っておく必要はあります。
ギリシャでは財政が破綻後に、
- 付加価値税(消費税)が急上昇
- 所得税の非課税額の引き下げ
- 年金支給開始時期の引き上げ
- 失業率の大幅な上昇
などが起きました。
ギリシャほど急速な悪化はないにしても国民生活への悪影響は考えられます。
4.ドイツの財政改革の例
ヨーロッパの経済大国で経済の優等生といわれるドイツも財政改革を行い、
- 失業保険の支給期間の短縮・給付金の減額
- 付加価値税(消費税)・所得税の2~3%アップ
- 年金支給開始年齢の2歳引き上げ
などを実施しています。
日本国が破綻しないとしても資産形成・資産防衛どのようにすべきか?
日本という国が破綻しなくても国民の生活や資産には大きな悪影響がでます。
財政赤字の継続・拡大によって想定されるシナリオは以下の2つです。
1.過剰な円の下落とインフレ
財政悪化がさらに続き、拡大すると円の価値がいずれ下落し、インフレが起きるシナリオが想定できます。
インフレは政府にとっては財政赤字が実質的に軽減し、円の下落は輸出企業にとっては競争力が強化されるのでインフレ、円下落対策が行われない(実質的に行えない)状況があり得るでしょう。
このような状況下では円資産をドル資産に換えておく、またインフレに強い資産に換えておく必要があります。
もう少し具体的にいえば外貨や外国株への投資、金や不動産などの実物資産への投資が必要です。
2.増税と緊縮財政でデフレの継続
増税と歳出削減で経済活動が停滞し、個人消費の落ち込み、株価の低迷でデフレが継続するシナリオも想定できます。
この状況では、預貯金はゼロ金利続き、株価は下落圧力が強まる可能性が高いでしょう。
デフレ下では、金利は期待できませんが、インフレによる目減りはないので現金・預金をためた分だけ価値は着実に増加させられます。
投資としては、不動産や金などの実物資産は現金・預金がインフレで目減りするのに対して目減りしないので、インフレに強い資産です。
さらに、不動産による賃貸収入はデフレだからといって急激に家賃は下がらないので、デフレに強い資産でもあります。
金もこうしたデフレ時には株や債券などが下落するため安全で下落可能性の少ない実物資産として投資対象になる傾向が強く、デフレにも強い資産です。
まとめ
日本の財政赤字が過去最高を更新していくなか、財務省の消費税を上げたという思惑、および結果的にその思惑に乗った形で報道するマスコミによって日本の財政の財政破綻に対する危機感・不安が高まっています。
そこで報道されているように日本の国が財政破綻するリスクが高いのかを検証し、財政赤字が国民生活に与える影響と資産形成・防衛をどうすべきかについて解説しました。
長期的な投資スタンスの参考にできます。