商売をする場合、何らかの法律に基づいて営業をする必要がある場合があります。
飲食店であれば食品衛生法の許可を取り、その法律の規定に基づいた営業をする必要があります。
無許可営業は取り締まりの対象になりますし、違反すれば許可の取り消しになるかもしれません。

貸金業法とは、お金を貸すことを仕事とする会社が守らなければいけない法律です
この法律は食品衛生法同様に許可の規定と営業に関する規定が定められています。
貸金業法の許可を取らずにお金を貸す営業をしている業者のことを一般的に「ヤミ金」と呼んでいるのは無許可営業だからです。

賃金業法とは?

このように貸金業法はお金を貸す仕事をしている会社が守るべき規定ですが、一般的に金融機関と呼ばれる会社のすべてが貸金業法を守る必要はありません。

例えば銀行は銀行法という法律があり、JAは農業協同組合法という法律に従って営業しています。
他の形態の金融機関、例えば労金や信金もそれぞれの法律があり、その法律に基づいて営業をしています。

これらの法律のことを「業法」と言います。
仕事をするにあたって守るべき法律なので「業」という漢字を当てているのでしょう。

ちなみに貸金業法が対象としている会社は消費者金融や信販会社です。
どちらも銀行法などのように、他の金融機関が守るべき業法に縛られない形態の金融機関になります。

貸金業法という言葉で一番連想することが多いキーワードとして「総量規制」という融資制限が挙げられるのではないでしょうか。
収入の3分の1までしか借りることができない規定として広く知られています。
この規定を知っている人は多いのではないでしょうか。

また、貸金業法では制限利率も定めています。
貸している金額が10万円未満であれば最高年利20%、10万円以上100万円未満なら、最高年利18%、100万円以上なら最高金利15%と決まっています。
これ以上の金利で貸すことは禁止されており、違反をすると営業停止処分などの制裁を受けるのです。

このように貸金業法の適用を受けている消費者金融や信販会社は、結構厳しい制限を受けつつ営業をしています。
では、他の業法はどうなのでしょうか。

銀行法などの業法は、貸金業法のような厳しい規定を設けていません。
つまり、年収と融資額の関連を無視した貸付が可能です。
銀行の中には「専業主婦専用ローン」というカードローンを提供していることがありますが、銀行だからこそできる芸当なのです。

最近の消費者金融や信販会社は、このような制限がある個人向け営業はホドホドにして、企業向け融資を強化することが多くなりました。
よく「総量規制対象外カードローン」として宣伝しているビジネスローンです。

貸金業法の総量規制の対象は、個人の生活費を賄うために借りる無担保融資に限定されています。
そのため、事業用のカードローンは総量規制のことを考えずに、消費者金融や信販会社の判断だけで融資をすることができるのです。

一般的に銀行は個人事業主に事業用のローンを貸すことはありません。
個人の生活費と混同される点が大きなリスクとなることが理由と言われています。
しかし、消費者金融や信販会社はこれをビジネスチャンスだと判断しているのです。

ちなみに貸金業法による営業許可は、各都道府県が出しています。
許可を受けても3年後には更新の手続が必要です。
特に問題がなければ最更新ができ、登録番号の前につくカッコ内の数字増えていきます。

この番号が大きいほど長期間にわたって営業をしていることがわかります。
もっとも、番号が大きいほど優良業者であるという保証はありませんので勘違いをしないようにしてください。

賃金業法で変わったこと

貸金業法は平成18年に大きな改正がありました。
改正によって先ほど述べた総量規制という融資制限と利率の制限ができたのです。

従来は融資制限がなかったので、消費者金融などの判断によっていくらでも貸すことができていましたし、金利も最高年利29.2%という高利率が適用されていました。
消費者金融の黄金期と呼ばれる時期がこの時期です。
バブルがはじけた平成元年の大納会以降、地価下落による景気悪化により消費者金融利用者も増加しました。
バブル期の生活が抜けきらない人が再度のバブルを期待して「つなぎ資金」を借りたのです。

消費者金融もこのような資金需要に応えたため業績は絶好調でした。
消費者金融に勤務している社員は同年代の年収を上回り、福利厚生等の待遇も最高レベルだったのです。

しかし、平成18年1月に現在の貸金業法で決められている制限利率を超える部分の金利は違法であるという判決が最高裁で下り、結果として貸金業法も改正を迫られることとなったのです。
これに伴って、俗に言われる「グレーゾーン金利返還訴訟」が頻発し、消費者金融の経営体力が著しく低下しました。
今まで29.2%で貸していたのに最高20%の金利に下げられ、差額を返還しろという話になったのです。

しかも、多くの場合10万円以上の融資限度額を設定しているため、事実上の最高金利は18%と従来の半分になってしまったのです。
こうして消費者金融の「バブル景気」も終焉を迎えました。

しかし、話はこれだけで終わりません。
グレーゾーン金利とは全然関係のない総量規制まで導入されたのです。

実は総量規制の導入には一つのきっかけがあります。
平成18年の改正前にテレビ番組などで、消費者金融が借り手の返済能力を考慮しない無理な貸付をしたため、自己破産に追い込まれた人の特集を組んでいました。
結構視聴率がよかったためか、この手の番組が何度も放映され社会問題化されました。

現実にこれを原因として自己破産に追い込まれた人も少なくなかったため、利息制限と同時に総量規制まで導入されたのです。
金利を下げられた挙句、融資制限まで受けたら消費者金融の営業は成立しません。

これにより、多くの消費者金融は廃業か身売りを迫られることになりました。
大手消費者金融の多くは銀行傘下に入り難を逃れましたが、これを潔しとしない大手の中には自らが民事再生法の適用を受けたようなケースもあります。
ただし、多重債務者の増加は消費者金融の営業方針にも理由があり、いわば自業自得と言えないことはありません。
しかし、グレーゾーン金利は従前から借り手側も納得の上で支払っていた金利を否定したわけですから、消費者金融としては納得がいかないでしょう。

とはいえ、悪法も法であることには変わりありません。
不満があっても業法には従わなければ営業を継続することはできず、平成22年の完全施行につながっていったのです。

貸金業法は誰を守っているのか?

貸金業法の改正直後には、政府広報などで貸金業法改正により多重債務者が減ってくるという見通しを立てていました。
しかし、平成21年の完全施行以降に明らかになった事実はヤミ金の増加でした。

今まで年収の3分の1以上を借りていた人は、平成18年の成立から平成21年の完全施行までの間に借入金を圧縮しないと追加借入ができなくなってしまったわけです。

現実問題として、今まで借金漬けになっていた人がそのような芸当ができるはずもなく、結局ヤミ金の増加をもたらしただけという皮肉な結果に落ち着きました。

総量規制の趣旨は正しいものであることは言うまでありません。
しかし、今まで借りていた人に対する処置をどうすべきかをろくに考えず、テレビ番組を見た「視聴者の声」を法律にしてしまった政府の責任は重いでしょう。
また、制限金利の低下はカードローン審査を厳しくしました。
大手消費者金融の中には上場企業もあります。
そのような企業は営業報告書の開示を義務づけられていますが、その中には「契約成立率」という項目があります。
つまり、審査に通った人の割合です。

いくつかの消費者金融は実際にデータを公表しているため、確認するとわかるのですが、軒並み5割を切っています。
大手銀行系列の消費者金融の中には成約率が3割以下というケースもあります。
消費者金融の宣伝を見ていると、ずいぶんと親しみやすくて借りやすいというイメージを持っていらっしゃるかもしれませんが、これが現実の姿なのです。

では、どうしてこんなに成約率が低くなってしまったのでしょうか。

金融機関の金利には二つの要素があります。
一つは純粋な金利であり、もう一つは保証料です。

純粋な金利は金融機関の収益ですが、保証料は将来の貸倒に備えた一種の積立金です。
両者の合計が一般的に「金利」として表示されているのです。
ちょっと考えていただければわかると思いますが、金利が下がったことにより消費者金融が経費節減などをしても、その効果は大きなものではありません。
つまり、ある程度の収益を確保しないと経営が成立しないのです。

すると、金利を下げられたことにより何が変わるかと言えば保証料が減るのです。
つまり、貸倒に備えた積み立てができなくなります。

結果として金融機関はリスクを取ることができず、審査は厳しくなってしまいました。
大手消費者金融で審査に落とされた人は、次に中小規模の消費者金融に向かいます。
一般的に審査が大手より緩めだと言われているためです。
しかし、審査の内容は両者でさほど違いません。
リスクがあると判断する基準は同じだからです。

ただし、一つだけ違いがあるとすれば、中小規模の消費者金融は、広告宣伝費などの販管費が少額でも経営できるため、同じ金利でも保証料に多くのお金を振り向けることができます。
つまり、リスクを取ることができるのです。

そのため、大手で落とされても中小で審査に通ったという人がいるのです。
しかし、すべての人が救われるわけではありません。
消費者金融に申し込む人の多くはお金が足らない人です。
将来の資金不足に備えてカードローンを申し込もうとする人もいますが、少数派でしょう。
お金が足らないのに審査に落とされたら、どうすればいいのでしょうか。

ヤミ金に頼るか、最近話題に上っているクレジットカード現金化をトライすることになるでしょう。
いずれの方法も利用者のリスクは非常に高く、とてもお勧めできるものではありません。
結局、貸金業法は誰も守っていないのです。