借金には時効があります。
時効が完成すると、借金をしている債務者(借主)は債権者(貸主)に対し、借金を一切返済しなくてもよくなります。
すると返済に苦しんでいる借主としてはこんな考えが頭に浮かびますよね。

「返済を止めて貸主から逃げ続けていれば、そのうち時効がやってきて返済しなくてもいいようになるのではないか ?」
そして返済を止めて住所を転々としながら貸主から逃げ始めたとします。

ちょっと待ってください。
そこには色々な落とし穴があります。
あとで後悔するかもしれませんよ。

そこでこの記事では、「借金の時効を使って借入をチャラにしたい」と考えている人に向けて、

  • 時効について
  • 時効以外の解決方法

を順番に解説します。

時効とは?

時効でわかりやすい例といえば、刑事事件の凶悪犯罪です。

凶悪犯罪を起こした犯人が警察に逮捕されずにうまく逃げ続けたとします。
刑法では事犯ごとに時効が設定されており、その期間内に警察が犯人を逮捕できなければ「時効が完成」して、警察はその犯人の罪を永久に問えなくなります。
つまり「無実」です。

そのため警察は必死になって時効が成立する前に犯人を逮捕しようと努力するのです。

この時効の考え方は同様に借金に関しても民法に盛り込まれています。
つまり、ある一定の条件を満たせば借金は時効にかかり、借主は貸主に対し永久に借金を返さなくていいようになるのです!

そのため、借金に苦しむ人は、貸主から逃げ回りなんとか時効を成立させて借金をチャラにしようとするのですね。

時効を使って借金を踏み倒すとどうなる?

そんな方法で簡単に借金踏み倒されたら貸主にとっては、たまったものではないですよね。

そんなに借金をチャラにするのは簡単なのでしょうか?
借金を踏み倒すにはその間、借主も色々なデメリットがあります。

  • 住民票を移したら貸主に居所がわかるのでそのまま逃げることになり、逃げた先で色々不便が生じる(個人情報保護法により簡単に他人の住民票は取れないが、貸主が自分の権利行使の場合は可能)
  • 逃げている間も返済の延滞金が発生してますます借金が膨らんでしまう
  • 借金取りにいつもびくびくして生きていなければならない生活が続く
  • 住民票が取れないとまともな仕事にも就けないので、より生活が破たんに向かっていく

などです。

決してよい状態とはいえません。
さらに時効はただ逃げ回っていたら成立するわけでもないのです。

時効の完成には必要な2つのこと

時効の完成には極めて難しい条件があります。
その要件とは以下の2点です。

  1. 時効を成立させるには返済をせずその状態が一定期間継続していること
  2. 時効の完成までに借主は貸主に対し、内容証明付き郵便で「この借金に時効を使う」旨の通知を送り、それに貸主が異議をとなえないこと

①の条件は貸主に連絡先を知らせず逃げ続けている限り可能かもしれません。
でも問題は②ができるかということです。

②の告知の方法を法律的には「時効の緩用」といいます。
借主が「時効の緩用」を貸主に告知した場合、はたして貸主が応じてくれるものでしょうか?

貸主の多くは金融のプロである銀行や消費者金融業者です。
貸主が法律知識に乏しい個人ならそのような可能性もないわけではありませんが、相手が金融のプロだとそう簡単には時効を完成させてくれません。
あらゆる方法を使って時効を中断させてくるでしょう。
(この時効の中断に関しては、あとで詳しく説明します)

そこで時効の中断について解説する前に、

  • 時効の完成にはどれぐらいの期間が必要か
  • いつから時効は始まるのか

それについて簡単に説明します。

時効の成立期間

時効の成立には一定の期間が必要です。
一般的には貸主が銀行等の商人の場合、時効は5年。貸主が個人の場合、時効は10年です。

ただ借金に絡む当時者については、殆どが銀行や消費者金融業者が貸主で借主が法人(会社)か個人のケースです。
そこで以下では、個人間の貸し借りは話がややこしくなるので、あくまで金融機関と法人・個人の間の借金に話を限定して記事を進めます。

時効はいつから始まるかということですが、その前に金融機関の融資は全て返済期限があり、時効の進行はこの融資の返済期限と深く関係があります。

たとえば融資形態のひとつである証書貸付等、毎月返済日が決まっている借金の場合、借主がその返済期日を過ぎても返済をしなかった場合、その返済期日の翌日が時効の進行がスタートする日です。
同様にカードローンのような利用極度額があるものでも、返済でリボ払いを採用し毎月返済額を決めているので、毎月の返済日に返済が滞ったら、その滞りが発生した返済日の翌日が時効のスタートする日になります。

時効の中断とは?

借主が時効の緩用を貸主に告知すると、銀行や消費者金融業は時効の中断をしてきます。
「時効の中断」とは何でしょうか?

刑事事件でも犯人が逮捕されれば時効が中断されます。
つまり逮捕が時効の中断要件です。

同様に借金における時効も一定の条件が整えば中断することができます。
しかも貸主が使える方法は以下のように複数です。

請求

請求とは貸主が裁判所を通じて借主に対し返済しろと「支払督促」をする方法です。

裁判所が貸主からの要請を受けて、借主の住所地に内容証明付き郵便で支払督促のための催告書が送られれば、それで時効の進行が6ケ月間中断されます。
一般的に時効の中断の8割以上がこの方法によるものです。

時効の中断後、6ケ月間借主が応じなければ貸主はまた請求手続きをすることで再び時効を中断させます。
このように貸主に請求を繰り返しされると時効はどんどん先に延びるだけで、借主の期待する時効が完成することはありません。
そしてそれでも借主が支払いに応じない場合、貸主は本格的に訴訟に移行させます。

しかも裁判中も借主が法廷に来ない、いわゆる欠席裁判で判決が確定したら、なんと時効が5年どころか今度は10年に延長されてしまいます。
借主にとって借金の放置でいいことは何もありません。

差し押さえ

貸主が借主に対し「借金を払え」と督促すると、借主は急いで持っている財産を隠したり換金しようとする動きをします。
そのような財産は貸主にとっても借金回収の最後の拠り所にもなるので、何とか阻止せねばなりません。

そこで貸主は裁判所に訴えて差し押さえ、あるいは仮差し押さえ、または仮処分の手続きをしてその動きを阻止しようとします。
この3つは内容が少し異なりますが、基本は借主の換金可能な物を法的に押さえて換金できなくするという点で共通しています。

その中には借主が毎月勤務先から得ている給与も差し押さえの対象になっているので、借主にはかなり厳しい状況となるでしょう。

ここでのポイントは差し押さえがなされると、請求同様、時効が中断されることです。
ただし最初から差し押さえの対象物もない借主にはこの方法が使えません。
貸主も相手を見て請求と差し押さえを使い分けてきます。

承認

請求や差し押さえと比べて貸主が最も手間や時間が掛からず、時効を中断させられる方法がこの承認です。
簡単に言えば借主に借金があることを認めさせればいいだけです。

ただし借主に借金の存在を認めさせるには具体的な行動が伴わねばなりません。
たとえば「借主に1円でもいいから返済させること」です。
そうすれば借金を認めて返済したことになるので時効が中断します。
あるいは「借主側から借金の減額交渉を持ち出させる」ことや、さらに借主に「借金の存在があることを認める誓約書を書かせた」書面を出させるのも有効です。

借金している人は法律知識に乏しい人も多く、金融機関の行う、ある意味ずる賢いこれらの方法で簡単に借金の中断をさせられるケースも多くあります。
プロと素人の情報格差から起こりやすい事例ですね。

時効を使わない借金が踏み倒す方法

このように貸主である金融機関はあらゆる方法を使って時効の中断を謀ってくるので、素人の借主が簡単に時効を使って借金をチャラにはできないことがおわかりいただいたと思います。
それではただ逃げ回るだけでは借金から逃れるのは難しいと仮定すると、借金解決の方法にはどのような方法があるのでしょうか?

それは債務整理です。
ただし債務整理にもいくつか方法があり、どの方法を選ぶかは借主の状況や考え方にかかってきます。

すなわち、

  • 借金の総額
  • 定期的な収入があるか
  • 借金を払う意思があるのか
  • 借金を全く払えない状況なのか

などに左右されるのです。

債務整理には以下のように4つの方法があり、借主は借金に対する自分の考え方も含めて、どれを使って借金を解決するか、十分検討しなければなりません。
さらに債務整理には貸主たる金融機関の合意や時には裁判所の判断も必要なので、当然法律知識も必要とされます。
素人にはなかなか処理できないことも多く、代理人として弁護士や司法書士を雇わねばなりません。

そこで次章から債務整理の方法についてより詳しく解説します。

債務整理の方法

債務整理は大きく分けて、

  1. 任意整理
  2. 民事(個人)再生
  3. 自己破産
  4. 特定調停

があります。

このうち、任意整理は借主と貸主の間で直接交渉して解決を図る方法ですが、他の3つに関してはいずれも何らかの形で裁判所の助けを借りることになります。

1.任意整理

任意整理は借主に借金を払う意思はあるものの、今のままではムリなので、なんとか貸主に借金の一部を棒引きしてもらい、払える範囲まで借金を減らす解決方法です。
当然借金を払うには返済財源が必要なので、働いて定期的給与のある借主が対象になります。

また、あくまで民間ベースで借主と貸主間の話し合いで解決する方法なので、裁判所を使った解決方法より弾力的です。
とはいうものの、借主は素人が多く交渉の代理人に弁護士または司法書士を雇った方がよいでしょう。

なぜなら相手は銀行や消費者金融など金融のプロなので、素人では交渉面で不利になることが多いからです。
一旦弁護士等が借主から依頼を受けると、以後の交渉は代理人たる弁護士が行うので、貸主から借主への支払督促も完全に止まります。
これも任意整理のメリットです。

任意整理の交渉では、借金に消費者金融のキャッシングが入っている場合、事前に過払い金の再計算をする場合があります。
なお過払い金についてはこちらの記事を参考にしてください。
グレーゾーン金利の仕組みと過払い金訴訟

過払い金の再計算の結果、過払い金があればそれを借金の返済に充ててもらい、相殺後の残った元金が減額交渉のスタート額になります。
そして両者の間でうまく話し合いが進めば、借金が減額されて3年~5年位を目途に返済が可能なレベルまで借金を減らすことが可能です。

また複数の借入先がある場合、借金の額の多い先から交渉を開始できる弾力性があるのも任意整理の特徴です。
全ての借入先が交渉に前向きとは限りません。
金融機関の返済に応じられる体力も色々だからです。
その点では相手の反応を見て交渉の相手を随時変えられるのも任意整理のメリットでしょう。

ただ任意整理のデメリットは、交渉が成立したら金融機関は借金の減額に応じなければならないので、最終的にその事実が減額に応じた金融機関を通じて個人信用情報機関に載せられることです。
すると最低5年間は登録されますので、その間は他のローンやクレジットカード等の利用ができなくなります。

2.民事(個人)再生

民事再生は裁判所を使って借金を解決する方法の一つです。

複数の借金以外に住宅ローンもあり、住んでいる自宅を手放したくないので、住宅ローンを返す意思のある人などが利用できる方法です。
借主が代理人たる弁護士等を通じ裁判所に現在の債務状況を申し出て、民事再生を認めてもらうと手続きが開始されます。

ただし認定には条件があり、それは住宅ローンを除き借金総額が5,000万円以下であること、返済のための定期的な収入があることなどです。

民事再生が認められると、住宅ローンの除く借金が総額の1/5~1/10程度に減額されるので、それを3~5年かけて返済することになります。
より詳しく述べると借金の総額が

  • 100万円以上500万円以下なら100万円に減額
  • 500万円超1,500万円以下なら総額の1/5に減額
  • 1,500万円超3,000万円以下なら300万円に減額
  • 3,000万円超5,000万円以下なら総額の1/10に減額

となりますので、自分の借金で民事再生を使う時の目安にして下さい。

このように民事再生では借主にメリットも多くありますが、デメリットもあります。
任意整理同様、金融機関に借金の一部を減額させるので、当然その事実が個人信用情報機関に登録され、5~10年ローンやクレジットカードの利用ができません。

さらにその事実が官報にも掲載されます。
裁判所に認められるのに時間が掛かりすぎるのもデメリットですね。
ただ時間が掛かっても、住んでいる自宅を手放すことなく、法的に借金の総額を大幅に減らせられるので借主のメリットも計りしれません。

3.自己破産

最終的かつ最も効果的な借金の解決方法といえるのがこの自己破産です。

自己破産は裁判所の手続を通じて認められますが、認められたらそれまでの借金が一切なくなります。
借主にとっては夢のような話ですが、一方貸主にとって自己破産は法律による強制的な債務免除なのでとんでもなく怖い話です。

したがって裁判所も両者間のバランスを取る意味からも、誰でも簡単に自己破産を認めてはいません。
自己破産を認められるにはいくつものハードルがあります。

まず借金の原因がギャンブルや浪費など、主に借主の性格に起因する場合、自己破産は認められません。
また過去7年以内に同じ自己破産で借金をチャラにしてもらった人や、財産があるにもかかわらず意図的に隠して貸主や裁判所をだまそうとした借主も自己破産手続きは認められません。

このような状態の人でなく、さらに借金を整理してもどうしても3年以内に返せないような状況にあるような場合、初めて自己破産は認められます。

さらに自己破産の宣告を受けると、確かに借金はチャラになりますが、本人が持っている財産で20万円以上の価値のある資産は全て強制的に換金されます。
当然住んでいる自宅や5年以内に購入した自動車など、先に売却しないと自己破産は認められません。

また他の債務整理同様、その事実が個人信用情報機関に登録され約10年間ローンやクレジットカードの利用ができなくなり、さらにその事実が官報に掲載され、地方公共団体の破産者名簿に載ります。
しかも職業制限まであり、例えば保険外交員や警備員などの資格が必要な仕事には当面就けません。

このように自己破産はいいことばかりではないのです。
しかしそれを甘受しても、自己破産後はそれまでの借金の重圧からは解放されるので、再び前向きな人生が送れるようになります。
もちろん貸主からの督促もありません。

そういう意味では、自己破産は借金をチャラにしたい人には究極の解決方法と言えますね。

4.特定調停

借金の主な解決方法はすでに説明した任意整理、民事再生、自己破産ですが、任意整理と民事再生の間の中間的な解決方法がこの特定調停です。

この特定調停の特徴は全ての解決を借主本人が貸主と交渉して図るという点にあり、弁護士等の介在はありません。
ただし全く公的機関の介在がないかというとそれはあります。
簡易裁判所です。

簡易裁判所に借主が特定調停を申し立てすると、簡易裁判所は調停委員という職制の人を紹介してくれます。
以後はその調停委員が借主と貸主の間に立って和解による借金減額の話を進めてくれますが、問題は全ての手続を借主が主体的に進めなければならない点です。

たとえば、どれ位借金があるかの資料をそろえるのも借主が貸主に個々に請求して用意しなければなりません。
時間も手間もかかるのでかなり大変です。
しかも相手は金融機関というプロなので、簡単に借主の思い通りの減額に応じてくれる保証もありません。

プロと素人という情報格差を利用して、どんどん強気の交渉をしてくるでしょう。
もし和解が成立して借金が減額になっても、最低3~5年で返済しなければならないので、定期的収入のない人はこの特定調停を利用できません。

さらにデメリットとしては5年超、この事実が個人信用情報機関に登録されるのでローンやクレジットカードの利用ができなくなります。
一方メリットとしては、全ての手続を自分で行って弁護士等の助けも借りないので費用が極めて安いことです。

いずれにしても特定調停は借金を減らす方法のひとつですが、自分で全ての手続を進めなければならないので、あくまで対応に時間が十分取れて、最後まで粘り強く手続きができる人向きの解決方法といえるでしょう。
関連記事:おまとめローンと債務整理のメリットデメリット

まとめ

時効を使って逃げ回り借金を踏み倒すことは借主が考えるほど容易な事ではありません。
むしろ事態を悪化させるだけです。
人間らしい生活を送りたいなら借金の解決に時効を利用することは必ずしもよい選択ではありません。

どうしても払えない状況なら、これまで説明してきたように色々な解決方法があります。
自分に合った債務整理の方法に正面から向き合って、もっと前向きな解決につながる方法を選ぶべきでしょう。